魑魅魍魎跋扈する平安乱世―――。
歴史の闇の中、異形の者共が暗躍し、式神操る陰明師たちと争っていた頃、
愛する人のため解き放てぬ因縁に抗い、苦しむ若者たちがいた。
華奢な女の体を鎧に隠した炎の四天王・怪童丸。
猛々しさと美しさ、そして優しさ併せ持つ武将・源頼光。
その冷たい美貌に鬼神のごとき心を秘めた妖しの麗姫・桜丹姫。
――「殺せ! 怪童丸を殺せ!」
時は正暦元年。足柄の深山に、鬼面の者が発した呪詛の声がこだまする。
桜丹姫の父――坂田義信は己の野望を果たさんが為に、実兄の子――まだ幼さの残る怪童丸を追い詰めた。
その凶刃が、まさに怪童丸の命を奪わんとしたその瞬間、放たれた矢が義信を貫く。
矢を放ったのは都から来た武将、源頼光だった。
出逢ってしまう怪童丸と源頼光。 心の何かを狂わせ始める桜丹姫。
共に戯れた幼き頃より怪童丸へと抱きつづけた愛情は、満たされぬままいびつな姿に膨らんでいく。
そして、数年の後――。
頼光に仕える<兵部四天王>として京の都を守護する怪童丸は、
風の四天王・渡辺綱、水の四天王・碓井貞光、土の四天王・卜部季武という仲間を得て
戦いに明け暮れながらも、ほのかな安らぎの日々を送っていた。
だが、彼らの気付かぬ間に京の都を包む不穏な空気は濁りを増していく。
忘れていた日々が悪夢となって怪童丸の胸に蘇る。――――それが予兆だった。
祇園会の最中、遂げられぬ業に心狂わせ悪鬼のごとき美しさを放つ桜丹姫の瞳が
頼光の傍、凛々しく従う怪童丸の姿を捕らえる。
忘れえぬ思い――。桜丹姫を止める力のあるはずなどない。
頼光を、四天王を、京の都を、その全てを滅ぼしてもかまわない。
ただひとつ。愛しき憎き怪童丸をこの手に抱けるのなら――。
『お前は、私のものだ!』
見せかけの平安を打ち破り、心締めつける声が京の都に響く―――。
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