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「おぉ、目を覚ましおったか」
見慣れた天井と共に晴明の慈愛と安堵に彩られた貌が飛び込んできた。少し疲労の色もうかがえるのは、きっとまた何か無理をしたからに違いないと頼光は思い至った。
身体を起こそうにも、鎧を着ている以上に重く感じられ叶わなかった。唇が乾いているせいで巧く喋れないのがもどかしかい。
「晴明殿…」
「…何じゃ?」
暗黒の中で自分を護ってくれた女人のことを問いたかったが止めた。どのように切り出して良いか解らなかったのもあるが、何よりも恥ずかしかった。
「…いえ、何でも。……少し、お腹が空きました」
「さもありなん。お主、三日も眠り通しておったのじゃぞ」
その場を誤魔化すために言ったことだったが、口にした事で空腹感に気付いた。晴明は身体に優しいものを用意させようと言って下がっていった。その優しい表情に、頼光は心底安堵した。
ゆっくり吐息を吐き、今一度天井を見つめた。
「あれは……夢だったのか? きっと夢だったのだな」
己に諭すように【夢】と続けた。
真黒の闇の中、女人に触れられていた背中が熱く感じられることが頼光に【縁】を望ませるが、それを女々しいと笑うことは出来ない。人が人を恋しく思うことは決して弱さなどではない。
深々と雪が降り、全てを閑かに包み込んでいった。大地も人も、その想いさえも…。
こうして誰にも知られることなく、本人すら気付かぬ初恋は、しめやかに終わりを告げた。
その想いすら雪の向こうに溶け込んで…。
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